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ドゥド・ポカリに消えた青年
[ エヴェレスト方面略地図 ]
ドゥド・ポカリに消えた青年_b0049671_2371214.jpg
                     (↑)ドゥド・ポカリとゴーキョのロッジ村 ; 背景の山ははチョラツェとタウツェ

(↓)ピークからのエヴェレスト ; 右はヌプツェとローツェの山塊
ドゥド・ポカリに消えた青年_b0049671_2391924.jpg1999年2月下旬から3月、1ヶ月に渡りネパールでエヴェレスト (エベレスト) を巡るトレッキングをした。現地でポーターを1人見つけての、単独行だ。難しい事ではないし、充分な時間と極多少のお金、それと基本的な体力と常識的な注意力があれば誰にでも行くことができる。そのようにして僕は、何ヶ所かの5000mを超える高みに立った。

僕がゴーキョ(4750m)を離れた日の午後、一人の日本人青年がゴーキョに達した。
ゴーキョはエヴェレストの展望で有名なゴーキョピーク(5360m)の拠点になるロッジ村で、周囲3km程の湖ドゥドポカリに面している。

                                          彼はその夕刻、夕景を見ると言ってピークに向かっ
ピークからのドゥド・ポカリと氷河                     た。だがそこにいた欧米人によれば、彼は登っては
ドゥド・ポカリに消えた青年_b0049671_241553.jpg来なかった。

既に漆黒に包まれた湖の上に、チラチラと灯りが動いている。へットランプだ。この時、湖の殆どは氷結していた。湖畔にトレッカー達が集まって凝視する。誰かがそこを歩いているのだ。暫くしてその光は瓦解した氷の下に落ちる。岸から80m。誰も何も出来ない。舟など無いのだ。やがてランプは動かなくなり、消えた。
翌日、ガモーバッグやストックで即席の筏を作り、彼の亡骸を引き摺り上げたのはトレッカー達だった。

ゴーキョのロッジから、ドゥドポカリへ流れ込む小さな
沢を石伝いに渡ると、そこがピークへの上り口だ。だがそれはほんの小さな踏跡であり、俄かには信じ
                                          たくない程に急な登りだ。
ゴズンバ氷河とギャチュンカンドゥド・ポカリに消えた青年_b0049671_2584556.jpg                      恐らく彼は登り口を見逃し、湖の北側湖畔の道をレンジョ・パス方面に行ってしまったのだろう。その路は徐々に高度を上げ、湖が遥か下方で途切れる辺りからは踏跡も判らない大きなうねりのある草原になる。
レンジョ・パス直下はガレ場になり、上り口は見付け辛い。

しかしそれにしても、氷結しているとはいえ標高4750mの湖の上を、しかも闇の中で歩く…
常識では考えられない無謀。
暗闇の中、彼は帰路を見失った。恐らくは高所障害に苦しんでいた筈だ。
                                         下方には湖が見える。湖畔を歩けばロッジに辿り付
く。遠くにはその灯りも見える。
                                          だが下りてみると湖畔は傾斜が急で歩ける状態で
レンジョ・パス方面からドゥドポカリを振り返る             はない。高所障害の辛さと不安、それが彼の
ドゥド・ポカリに消えた青年_b0049671_37159.jpg正常な判断を狂わせたに違いない。

後日、彼の亡骸はヘリコプターでカトマンドゥに降ろされ、日本から飛んで来た父親の手に引き渡された。21歳だった。

これは3組のトレッカーから別々に聞いた断片的な情報を総合したものだ。レンジョ方面に行ったというのは想像にすぎないが、状況を総合的に結び付けるて考えると、おそらく間違ってはいない。

この旅では、幾人もの無謀と思える日本人青年に会った。それが若さなの特権であり魅力でもあるのかもしれない。

僕は山屋ではない。だからこそ山に対する畏怖と謙虚さとは忘れてはならないと自分に言い聞かせている。
これをたまたま見てくれた誰かがもしも高所トレッキングをする機会があったなら、決してこのような事故の当事者に成って欲しくはないという思いとともに、彼の冥福を祈りたい。

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この時のソル・クーンブ地方のトレッキングに関するフォトアルバムを別所で掲載しています。
合わせてご覧戴けたら幸いです。

TRAVELOG : http://www.travelog.jp/~meiguanxi/
  第1集  ソル地方
  第2集  アイランド・ピーク(イムジャ・ツェ)B.C.
  第3集  エヴェレストB.C
  第4集  ゴーキョ・ピーク
  第5集  ターメ&ナムチェ・バザール
by meiguanxi | 2006-09-09 13:05 | ヒマラヤ・チベット | Comments(0)
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