カシャーン(イラン) : 泥の街
[ 西アジア略地図 ]
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                                                            旧市街の路地

マスジッデ・ソルターニーイェ                  アラビア海から北西に入り込むペルシャ湾を陸地に延長する
b0049671_1031959.jpgと、そのままチグリス川・ユーフラテス川の流れるメソポタミア平原だ。菱形のような形をしたイランの南西辺はこのメソポタミアとペルシャ湾に接しているわけだが、このラインに沿ってザクロス山脈が聳える。エスファハンはこの山脈中部の北東裾野の細長い盆地様の高原の一角に開けた都市なのだが、更に東側にはザクロス山脈と平行する支脈が伸びている。
 エスファハンから首都テヘランへの道は、この支脈を北辺で回り込むように通じているが、僕の乗ったバスはこの支脈を潔く越え、イラン中部の低地地帯に降りる。低地といってもその殆どは砂漠で、北側にはキャビール砂漠、南側にはルート砂漠が広がる。越えて来た山脈は白い雪を抱き、走る道の周囲はキャビールの、色の無い土漠だ。メインルートからは外れ交通量も少ないが、しかし西アジアの大陸を移動しているのだという実感を強く抱かせてくれる道でもある。
 ペルシャ絨毯の産地として名高いカシャーンは、このキャビール砂漠西端に位置するオアシス都市で、パキスタン国境からザヘダン、バム、ケルマン、ヤズドを通り、コムでエスファハンからの道を合流してテヘランへ至る、いわばイラン中央を南東から北西に突っ切るルート上に位置する。
 今はこの街に関する情報もそれなりに充実しているようで、ちょっと検索してみてもフィン庭園やテペ・シャルク遺跡など郊外の見所の他、昔ながらの景観を有するアブヤーネ村へのゲットウェイとしても紹介されている。
 だがこの時に僕の持っていたガイドブックには、サファビー朝シャー・アッバースの宮殿を有するバーゲ・タリキイェ・フィンという庭園が郊外にあるという程度のインフォメーションしか掲載されていなかった。知らないということは恐ろしいことだ。アブヤーネ村を知らなかったことなど特に、今では地団駄を踏む思いだ。

ハビーブ・エブネ・ムーサー廟                                              絨毯の洗浄
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 ところでこの時、僕はトルコから中央アジアへ至るべく、その通過地としてイランに入国したので、2回目だったイランは実のところマシュハドさえ見られれば良かったのだ。トルクメニスタン入国期日までの日程を消化する為もあってエスファハンの金曜礼拝を訪れた後、どうしてカシャーンに寄ろうと思ったのか、実のところ判然としない。イラン式宮殿と庭園に感心があった訳でもないし、なにしろ殆ど行き方くらいしか情報が無かったのだから、ちょっとした気紛れ以上の興味があった訳ではないことは確かだ。
 確かに僕はアブヤーネ村もフィン庭園やテペ・シャルク遺跡も目にしていないわけだが、それでもこの街を訪れた気紛れに、僕は感謝した。落ち着いた賑わいの表通りからアーケードのバザール通りに入る。地方の小都市的バザールで、それ自体はそれほど珍しい光景ではない。
 バザールの一角から裏路地に出る。そこに現れたものは土色の世界だった。日干煉瓦と泥で塗り固められた家並みが犇いている。その向こうにモスクや聖者廟のドームが聳えている。そのドームも土の色だ。まるで中世に迷い込んだような錯覚に陥る光景だ。


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泥の家々が犇く路地を彷徨っていた時、一人の男に呼び止められた。彼は僕が立っていた前の絨毯ファクトリーを経営しているのだという。と言われても、そこに建っていたのは周りと変わらない泥壁の住宅だ。中に入ってみると、漆喰で塗り固められている所為か、鉄筋の建物かと錯覚するような感じだ。2階でチャイを御馳走になりながら、絨毯の洗浄を見学させてもらった後、更に上階から屋上へ。
 そこで僕が見たものは、この8年前に見たアルゲ・バムが現在に蘇ったかと見紛うばかりの、日干煉瓦と泥の屋並の連なりだった。そしてそれは今現在なお人々が生活する生きた街で、かなりの大きさを持った都市だった。欧州に石の文化があり東アジアに木の文化があるように、ここイランには脈々と営まれてきたのだ泥の文化が確かに存在したのだ。

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                          カシャーンへ向かうバスの車窓(ザクロス山脈の支脈とキャビール砂漠)
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by meiguanxi | 2007-03-21 02:46 | 絲綢之路Ⅲ[西亜]
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