[ 雲南省略地図 ]
ラオスとビルマに国境を接する西双版納(シーサンパンナ)傣(タイ)族自治州の州都・景洪(ジンホン)。雲南省の省都・昆明(クンミン)から南西に700km程。96年初版98年第3刷のガイドブックのデータでは691kmと成っている(98年発行『雲南省交通図』では707km)が、88年に省測絵局編制の『雲南省交通図』という地図には742kmとある。 初めてこの町を訪れたのは90年。その時は昆明から2泊3日のバスの旅だった。直通バスなのだが、途中、専用の宿泊所で停車するのだ。他に1泊2というバスもあったが、早朝出発して翌日の深夜に着くというハードなものだった。山道を稜線に沿って道はうねうねと続いた。中国製のおんぼろバスは喘ぐように漸く走っているという状態。走れど走れど一向に直線距離が稼げない道。途中の宿泊所は、西遊記に出てくるような魔物が現れるのではないかと思えるような山奥の寒村。 途中の思芽(スーマォ)という町まで飛行機もあるにはあったが、チケットはまず取れない上に、そこから更に何時間もバスに揺られなければならなず、しかも当日の乗り継ぎは不可能だった。 小学校 高床式竹製住宅の下は豚の居所(曼聴路) この時代、インドシナ各国(雲南、ビルマ、ラオス、ヴェトナム、タイ)はそれぞれ陸路の国境を閉ざしたままで、何処の国から何処の国に行くことも出来なかった。また中国国内も今のようには自由に移動できず、開放地区はほんの僅かだった。雲南省でいえば、昆明・石林・大理・麗江、それとこの西双版納でほぼ全てだった。例えば、景洪から大理に真っ直ぐ向かうルートがあるが、そのルートは留学生でもない限り通過は許されず、いずれも昆明から往復しなければならなかった。 西双版納は正にどん詰まりだった。それだけに、当時タイ以外は入国もまま成らなかったインドシナの雰囲気を感じさせてくれるエキゾティックな、そして特別の場所だったのだ。 小川で漁をする女性 ビルマ式の仏塔(近郊の村) 町は至って簡単な構造をしていた。南北に走る数百mのメインストリート、その東に版納賓館というホテルのある通り、賓館の裏はもう瀾滄江(ランツァンジィァン)、メコン川だ。この2本を繋ぐ通りは、メインストリートとの交差点から先すぐに未舗装に成る。この南に賓館の通りの南端からカーブし道成りにメインストリートまで繋がる裏道がある。これらをぐるっと一回りしても20分程だろうか。その外側は未舗装の、村人の生活道だ。賓館から、どちらの方向でも良い、自転車でのんびり10分も走ればタイ族始め少数民族の村に着く。村の家々は伝統的な高床式で、質素な瓦葺き。或いは茅葺き。軒では豚が放し飼いにされている。 賓館の通りの南端から曼聴路という細い未舗装の道が伸びている。この通りに、タイ族の家屋を利用したタイ飯屋が数件 ある。高床の下の、本来は家畜の為のスペースに壁を付けて食 近郊の勐混(モンフン)で開かれる日曜市 堂にしているのだ。勿論、ドアなどは無い。上階は民宿に成って いて、そこは下階が隙間から透けて見えるような板張りの、まさにタイ族の民家だ。 ここで雲南名物の紫米(黒餅米)と巨大な獅子唐の肉詰めなどのタイ料理に舌包みを打ちながらビールを呑み、旅の話など語らっていると、奥地まで遥々来たものだという感慨が甘く忍び寄る。周りはタイ族の村。 賓館にはバンブーハウスと呼ばれる2階建てのドミトリー(3・4人部屋)があり、そこの共用バルコニーで日がな本を読むも良し、自転車で村を回るも良し、時にはバスや船に乗って近郊へ遠出するも良し、或いは7・8人集まればワゴンでツアーを出すも良し。何日いても飽きない雰囲気がそこにはあった。 人口3万程度の田舎町が、ほんの5・6年で市人口37万、市街地人口でも十数万の大都会に変貌することを想像できるだろうか。今や町ではなく、街だ。そして観光と貿易の最前線都市なので、人口から想像するより遥かに都会だ。 街の規模は拡大され、かつて村が点在した範囲にまで区画整理された舗装道路が張り巡らされ、ビルが林立する。どの通りにも商店が犇めき、毎日、飛行機が無数の観光客とビジネスマンとを運んでくる。あの曼聴路は舗装道路に整備され、両側には沢山のタイ料理屋が並ぶ。嘗てのタイ飯屋ではない。立派なレストランだ。どの店でもタイ族伝統舞踊のショーを売り物にしている。夕刻、店の前には洗練された華美な民族衣装を身に付け、しっかりと化粧を施した女性達が中国人団体観光客を出迎える。 近郊の哈尼(ハニ)族の村にて 瀾滄江(ランツァンジィァン:メコン川) 初めに書いた道路距離に50km程の差があるのは、もちろん整備が進んだ為だ。2000年には昆明から景洪まで、夜行バスで20時間だった。勿論、途中宿泊などは無い。おそらく現在はもっと縮まっていることだろう。 99年、ビルマ国境地帯の辺境を旅して辿り着いたその街に、のんびりとした9年前のあの町の面影は全く、見付けることができなかった。某作家風に言えば、「しかし」も「けれど」も「ただし」も無く、完璧に、一片も。それは違う街だった。従って、ここに掲載した写真は既に、世界中の何処にも存在しない風景であり光景だ。 ※ 勐混 (menghun) 日曜市 1990 的風景 1999 的風景 日曜市 1999 的風景
by meiguanxi
| 2007-04-20 00:54
| 雲南省と少数民族
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Comments(6)
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phraganet at 2007-04-20 21:32
初めまして。雲南省は、中国人観光客にとって避暑・避寒地になり、ちょっとした海外旅行気分も味わえるとあって、原風景を急速に失っていく運命なんですね。悲しいことに。
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meiguanxi at 2007-04-20 23:56
いらっしゃいませ。Bangkokに住んでいらっしゃるんですね。あの ンモワっとた空気に包まれたいと、日々もんとしています(笑い)
最近、雲南にいらっしゃったんですね。僕の雲南は90・91・93と、最近でも98末-99・2000年です。この93年と98年末の間に雲南はすっかり変わってしまったようです。phraganetさんが記事で書いていらっしゃるように、辺境の田舎にまで高速道路網が走り、古い街並みは悉く再開発されました。中国人も気儘に観光旅行ができるようになったということについては中国人民とともに喜びたいですのですが、一外国人旅行者としてはかなり微妙なものがありますね、確かに。
景洪だったのかな?
「チベットの碧_」の最初に出てくる風太さんは西双版納の話もしてくれました。紫米、バンブーハウス、鶏の目覚まし等々。凄い興味を抱きましたが、結局、湖のある大理を選び、西双版納は行かずじまい。この記事を読むと、あの時いっとけばと云う気持ちと強行していれば今の自分は…という気持ちが絡み合います。 そして今、 こんな過去ログにコメントして気付いてくれるやろか? お〜い!
はぶさんのコメント辿ってここに到着。
先日某旅行関係の掲示板を見ていたら、昆明からラオス国境のモンラーまで、バスで14時間半ですって! 昭和は遠くなりにけり(違うか)。 景洪から昆明へバスで戻る時、車駅旅社で1泊1元ということがありました。89年の秋でした。当時でも1元は破格でしたね、他では記憶にありません。2002年発行の地図冊を見ているのですが、どの町だったのか、もうわかりません・・・。青って字が付いていたような・・・?
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meiguanxi at 2007-12-22 23:35
はぶさん、現在のTOPからここに来るには幾つかの記事を辿らなければならない訳で、ちゃんと見てくれてるんだなと嬉しく想います。
風太さんが “鶏の目覚まし” と言ったのならそれは版納賓館のバンブーハウスではなく、ヤマネさんも泊まった曼聴路の民宿だと思います。あの頃は大理にしろ景洪にしろ、どちらに行くにしても昆明から往復しなければならなかったので、両方は辛かったですよね。僕も昆明の記事に書いたようなハプニングで新疆をパキに抜けられなかったということが無かったら、大理には行かなかったと思いますし。 今の景洪は…少なくとも今度の はぶさんの旅では行かなくていいかな^^
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meiguanxi at 2007-12-22 23:50
ヤマネさん、勐腊まで14時間ですかぁ…まあ、2000年の時にも景洪までのハイウェイは途中までしか出来ていなかったので、その後の時間短縮は想像してました。ラオス・雲南国境の記事にも書いたのですが、南北経済回廊といって昆明からビエンチャンまでのハイウェイが中国の肝いりで整えられましたしね。
青の字の村は、88年の雲南省交通図と見る限り、元江と峨山の間の青龍厂かなぁ…にしても1元ですか。僕の場合には少なくとも5元位はしたんじゃないかなぁ。
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by meiguanxi
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