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from Leh : ツーリスティな辺境
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                                                           2007.6.24

 インド領ヒマラヤ西域ラダック地方の中心地レーは、北側がヒマラヤの支脈であるラダック山脈、南側がザンスカール山脈に挟まれたインダス川上流の、北の山脈から流れるインダスの支脈が作る広い扇状地の奥に開けた町だ。
 この町を訪れることは、少なくとも陸路による限り、かなりハードな道程になる。これについては前の手紙で述べた通りだが、実は13年前、僕はこれとは違う道を辿ってこの町を訪れている。インド領カシミールの中心地で美しい湖が有名な観光地であるシュリーナガルから、1泊2日のバスで、やはり4000m急の峠を越えてやって来たのだが、時折りしもカシミールを巡るインドとパキスタンの紛争、それに独立派ゲリラの紛争が激化する寸前で、乗ったバスが政府軍とゲリラとの銃撃戦に遭遇してしまったりしたものだ。
 北にはパキスタンとの停戦ライン、すぐ東は現中国占領下の西チベットであるこの町は、まさに奥地というに相応しい地理的条件にある。しかし、このブログには度々登場願っている後藤ふたば氏がこの地を訪れたのは1993年だっただろうか。そのときの著書に彼女は、「レーは秘境ではないのだ」といったことを既に書いている。僕が出たばかりのその『もうひとつのチベット行』を読み、強引にぶち抜いた2週間の休暇で陸路カシミールからラダックに至るという強硬な旅にでたのが翌94年、しかしその時にはまだもう少し素朴な雰囲気が残っていたように記憶している。
 今もこの町は居心地が良い。メインバザールと呼ばれるメインストリートの、車道と歩道の段差に野菜を並べた露天のおばちゃん達の姿もそのままし、町の北側の高台に聳える、かのラサのポタラ宮のモデルになったという王宮の廃墟もそのままだ。旧市街の石と土壁で作った、迷路のような家並みも健在だ。だが町は拡張され、僅か夏場の2・3ヶ月間の賑わいとはいえ、ちょっとしたネパールはカトマンドゥのタメル地区(旅行者街)化してしまった感がある。
 さて、ところで、何時でも何処でも兎に角はビールの僕である。しかしここは紛い成りもインド、安レストランには少なくとも大っぴらにはアルコールは置いていない。旅行者を目当てにした店を選ぶと、ボトルをテーブルに運ぶのは憚られるという訳で、奥でグラスに注いだビールを運んでくれる。グラスが空になるとまた注いで来てくれるという訳だ。勿論、ここは奥地、値段は高い。1本約(100ルピー)300円もする。ホットシャワーの出る宿が200ルピーなのだ。酒飲みであることが辛いのも、インドなのだ。
 ところで、飯を食いビールを飲み、僅かばかりながらチップを置く自分が、どうしてインド人の物乞いに1ルピー出すことを躊躇うのか。勿論、言訳なら幾らで思い付くし、それらはそれなりに説得力が無くもない。だが、そういうこととは少し、違う。
 13年前、町の中心にあるゴンパ(僧院)で、美しい服を着たラダッキ(ラダック人)の少女姉妹を写真に撮っていた時、「パンジャビ(シーク教徒の住むインド西部の州)、ジャパニ(日本人)、フレンド」と言って手を差し出すインド人少女がいた。どうしてパンジャビとジャパ二がフレンドなのか分からないが、そんなことには意味は無いのだろうし何処の国の旅行者にもそう言っているのだろう。弟を片腕に抱いたその10歳か12歳ほどの少女は、非常に美しい目と顔立ちとを持っていたが、残念ながらそれに相応しい身成りを有してはいなかった。顔も手も腕も脚も真っ黒に汚れ、髪は捩れて痛み切っていた。美しい顔は魅力的な可愛らしい笑顔を作ったが、そこには媚が混ざらざろうえなかった。僕は写真を撮らせてもらう換わりに、僅かばかりのバクシーシを与えた。10ルピーで彼女の自尊心と肖像権とを買ったのだ。
 もし、彼女が生き延びているのなら、ちょうど妙齢の美しい盛りを迎えている頃だ。しかし勿論、実際には美しさとは程遠い人生であるに違いない。だが、願わくは生き延び、苦しくともそれなりの、出来れば今日食う物に困らない生活をしていてくれるのなら、と思わずにいられない。
 などどいう無責任な感傷は、実はビールの肴だったりするのかもしれない。僕の心は、実はそのことに、本当には傷付いてなどいないのだ。それは歳を取ったということかもしれないし、日本の政治に関して達観してるということと何処か繋がるのかもしれない。
 ただ、無責任であるが、若者にはそういうことを感じるためにだけでも1度だけ、旅をして欲しいと思ったりもするもだ。もっとも、今の日本の若者がそういうことを感じるのかどうか、既に分からない年齢に僕は成っているのだが。
 (誤字脱字、推敲の時間が無く、申し訳なく)
                                                            by 没関系
by meiguanxi | 2007-06-24 16:34 | Air Mail | Comments(4)
Commented by ヤマネ at 2007-06-24 20:23 x
没さん、こんばんは。
昨日の記事も読ませていただきましたが、いやー没さん、美しすぎる・・・。
私はレーとデリーを結ぶ陸路は通ったことがないのですが、情景が目に浮かびました。
ところで、力持ちだったロバも今やすっかりフツーの人並みになり、根性だけで体重の半分以上のザックを背負っていた私もまた、それどころではない身体的状況になっております(笑)。中年には中年なりの、旅のしかたもあるのでしょう。ゆっくり楽しんでくださいね。あ、もしかして、ダラムサラまで歩かれますか?(うそうそ、ジープが来るあの村で十分ですからね!)
Commented by 舞姫 at 2007-06-25 00:27 x
こんばんわ~♪ 「元」あらため舞姫で登場だよ。
想像通りの旅人してますね。私もメキシコに行ったときの衝撃は覚えています。アメリカの国境を越えるとボロを纏った人たちが頭を下げてくる。
ほんの 50cm向こうは緑の芝生なのに・・・。 タイではお金をくれたら写真を撮らせてあげると言った少年がいましたが、私はお金を払って写真を撮ったことはありません。 そういう写真はつまらないだろうな・・・って
私自身がつまらなく感じるから。w でも憧れのインド、ネパール、ミャンマー、ベトナムとかに旅立ったら見るものすべてを写真に収めたくなるのかもしれませんね。 
あ! 私は18歳まで野山を駆け巡って北海道で育ったでしょ。だから都会でのバブルっちいことは気にもしませんでしたよ。真っ黒でも美白肌なんか気にもしなかったもの。そんな豊かな土地をはなれてしまったからいろいろ考えるんだけど・・・destination (目的地とか行き先)は destine(神が仕向けた運命の行き先)だと思っています。 
そしてDestinationは今現在住んでいるところでもあると思います。

メイさんの記事を読んでいるとまた旅にでたくなっちゃうよ><。

Commented by meiguanxi at 2007-06-27 00:14
ヤマネさん、「いやー没さん、美しすぎる」…僕も僕の旅も美しくはありませんからw ってそうじゃない? で、ですよね。 はい、とっても美しい景色でした。なにせチベット・ヒマラヤの荒涼に乳緑色の川ですから。
「中年には中年なりの、旅のしかたもあるのでしょう」そ、そうですよね^^A; あまり若者と競り合ったりしないよう戒めます。馬と馬方さんとの息が合えば、後はネパールとはちがって急に上がる標高の問題かな。
で、ですね、ダラムサラは遠過ぎますますか^^ でも、ダラムサラって、ここから見ると平地に見えちゃうんですよね
Commented by meiguanxi at 2007-06-27 00:17
舞さん、ぼくもお金を払って写真を撮ることは基本的にしなせん。帰って来てか、ああ、あの時の写真、撮っておけばなぁって思いをすることもあるけどね。
Destinationかぁ、今日は難しいこと言うんだなぁ^^ もしかしたら、帰るべきところかもしれないっても思ったりもします。
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