[ カフカス略地図 ]
グルジアの首都 トビリシ から、南のアルメニアに向かう道は2本ある。このうち首都イェレヴァンへの国際バスは、ムガロンという国境を通る。だがこの道は西に迂回するので、デベド渓谷沿いのアラヴェルディは通らない。トビリシから真っ直ぐ南にバグラタシェンという国境がある。ところが中央バスターミナルに行くとこの国境へのバスは、無い。しかも、どこからそのバスが出るのか、全くコミュニケーションが取れない。英語が通じない国を旅する難しさ。 サナヒン修道院(以下3枚同) 結局、50km程も西に迂回するムガロン国境経由で、ヴァナゾルという町まで のバスに乗る。アラヴェルディの南50kmの町。ここでバスを乗り換え、渓谷を1時間半も北に遡らなければならない。それよりなにより、真っ直ぐ南に下れば国境まで直線距離で100kmも無い筈なだが、迂回路(こちらが幹線)でヴァナゾルまでは6時間も掛かってしまう。山岳路である上、道が至って悪い。 しかも、15時半に到着したそのヴァナゾルのターミナルでは、既にアラヴェルディへのバスは終わったと、チケットブースで告げられる。やれやれ。そこに登場するタクシードライバー。どうにも納得できない気分で、そこら中の人を捕まえては声を掛ける。勿論、英語は通じない。その間、タクシードライバーは一々口を出してくる。そのうち、たっぷりと髭を蓄えた恰幅の良い男が、そのタクシードライバーと激しく罵り合いを始めた。胸座をつかみ合う勢いだ。こちらには何のことか全く分からない。その男は僕に何事か告げると、そちらこちらと歩き、誰彼に何事か話し掛けて廻る。僕は途方に暮れる。人口17万人の、アルメニアで第3位の町とはいえ、閑散として面白味の無さそうなこの町に、今日は泊まるしかないのか。 ところがだ、バスはあったのだ。男が見つけてくれたのは、ミニバスだった。おそらくミニバスはチケットブースの取扱い外なのだろう。タクシードライバーは体格では髭の男に敵わない。しかし、憤懣やる方無いといった様子で、髭の男に口汚く何事か罵声を浴びせて去っていく。貧しい国、折角の久々の上客を取り損なった訳だ。尤も、僕はそのタクシーに乗る気は端から無かったのだが。 ミニバスは大変な混みようで、通路には大量の荷物、おまけに子山羊まで乗っていた。それでも乗客達が至って友好的だったことは、気持ちが荒んでいただけに救われる。 デベドは小さな川だが、渓谷は深い。アラヴェルディは谷底の小さな町で、川沿いの街道には直ぐに断崖が迫っている。雨が降り出す。考えてみれば、この国の通貨を手にする暇さえ無かった。国境は何も無い山の中で、両替所どころが、民家一つ無かった。ミニバスは1ドル紙幣で乗ったのだ。さて、山の中のこの小さな町に両替する場所があるのものかどうか。既に18時だった。 ハグパット修道院(以下5枚同) 対岸の崖の上までロープウェイが登っている。いったい何年前に造られた物な のか、いつ落ちてもおかしくないように思える程オンボロだ。そして恐ろしいほど高度が高い。その断崖の上にホテルがある筈だった。小さな広場があり、町というよりは村、商店が2・3軒。そんな処には不釣合いなひとつの大きなビル。その8階か9階建ての建物がホテルだ。だが入口にはチェーンが掛けられ、閉鎖されている。やれやれ。また途方に暮れることになる。こんな物寂しい町に、他に泊まれる施設はあるのだろうか。入り口の前で呆然としていると、一人の男が声を掛けて来る。例によって、言葉は通じない。 やがてその男に呼ばれた別の男がやって来て、チェーンの鍵を開ける。管理人らしい。チェックインも何も無い。彼は4階の部屋に案内する。しかし、ソファーが壊れている。彼は「やれやれ」というふうに微笑んで、6階に上がる。言っておくが、エレベータなんてものは当然、無い。ちょっと待て、こんなに大きなホテルで、しかもチェーンで入口が閉じられているからには他に客はいない筈なのに、通されるのがいきなり4階で、次が6階なのか。 だが、他の部屋がどんなことに成っているのか、想像してみることはやめることにする。部屋にはバスタブがあったが、水が出ない。トイレも流れない。彼は水差しに飲み水を持って来る。流石にちょっと文句を言ってみる。案内されたのは地下室。ボイラー室のような処だ。電気は通じていない。そちこちにダクトが通っている。打ち捨てられた廃屋といった面持ちだ。バルブを開くと、無造作に転がっていたホースから水が出た。水に困ったらここから運べということらしい。やれやれ。 近所にレストランや飯屋などがありそうな気配ではない。おそらくロープウェイで下の町まで下りなければならないだろう。それでもあるかどうかの確証は無い。少し憂鬱な気持ちでそんなことを考えていると、ドアがノックされる。このようなホテルでドアをノックされるのは気持ちの良いものではない。ところが、誰であるのかとの問いに答えたのは若い女の声だった。開けて見ると美しい女が満面の笑みでそこに立っていた。やれやれ、こんな寂れたホテルにもその手の女がいるのか。だが、残念ながら彼女は「食事はいかが?」と言ったのだ。ホテルのエントランスを出て外を回り込むと、同じ建物の一階に彼女の小さなカフェ、或いはバールはあった。同じ建物なのだが、ホテルとは繋がっていない。どうやら彼女が一人でやっているようだ。 ところがこのカフェ、非常に困ったことにメニューを出さない。値段を訊いても答 えない。心配しないでとか、大丈夫とか言うばかりで一向に埒が開かない。挙げ句には勝手にどんどん料理を持って来てしまう始末まのだ。といっても大した料理ではない。サラダなどを覗けば殆どが出来合いだろう。もちろん僕はすぐには食べずにしつこく値段を訊く。すると漸く彼女は500円程の値段を口にした。アルメニアで金を出すのはロープウェイ以来2度目なので確かことは分からないが、アゼルバイジャンやグルジア、それにトルコの物価と比較しても高過ぎる。そう告げると彼女は、「you, how mach?」と訊いてくる。やれやれ、ここはインドか。それらを僕が注文したわけではないので、並べられた皿を指差して一皿ずつ要らないと断る。後には2皿の料理が残った。ここでもう一度値段交渉をすると漸く300円程になる。勿論それでも高い。おそらくこの国では1ドルかそこらで食事はできる筈だ。だが、問題は他に食事をする場所が無いということだった。 ビールの無い食事を済ませ、すっかり暗くなった広場にあった店でミネラル・ウォーターを求めるが無い。他にはキオスクのような売店があるだけだったがそこにも水は無く、仕方なくコーラを買ってホテルに戻る。この時になって始めて気付いたのだが、このホテル、電気を基本的に切ってある。宿直室だけにほの暗いランプのような電球が点いている。そこには爺さんがひとり、ぼつんと座っていた。電気が点くのは僕の部屋と宿直室だけで、夜になると廊下も階段も真っ暗なのだ。もう一度言うが、8階か9階建ての大きなビルだ。手探りで真っ暗なビルの階段を6階まで登ったことがあるだろうか。それがどんなに恐ろしいことか、想像してもらえるだろうか。さて、水差しの水は到着した時に身体を拭くのに使ってしまっていた。だが、あの地下室までトーチを照らして下りて行くなどできよう筈がない。やれやれ、今夜と明朝はコーラで歯を磨くのだ。 翌朝、宿直室の爺さんは既にいなかった。エントランスには・・・外からチェーンが掛けられている。僕はこの廃屋(のようなではない、それは間違いなく廃屋だ)に閉じ込められているのだ。やれやれ、なんてこった。
by meiguanxi
| 2007-09-07 18:11
| カフカス
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