[ チベット周辺略地図 ]
1993年4月下旬、ラサのヤク・ホテルに泊まっていた僕は、同宿だった日本人2人、欧州人3人とともに四輪駆動車をチャーターしてネパールとの国境を目指した。途中の町やチョモルンマ・ベースキャンプなどを経て7泊目が国境というスケジュールで、車代は1人100ドル程度だったと記憶している。なにしろ1泊10元(150円程)のドミトリーに泊まっているような旅行者だから、その金額は決して安くはない。だが当時、バスで点々と町々を巡るには相当の苦労が必死だったし、なんと言ってもチョモルンマ・ベースキャンプに寄れるというのが魅力だった。 運転手、助手席に2人、後部席に4人、計7人の男を詰め込ん だランドクルーザーはラサの街を朝の9時20分に出発し、標高 4750mのカンパ・ラ、同じく5045mのカロ・ラ、4210mのシミ・ラという3つの峠を超えて午後4時40分、ギャンツェの集落に入る。この間の休憩はカンパ・ラからヤムドゥク・ツォ(湖)を眺めたのと湖畔の農村で村人達と暫く戯れただけで、食事もとっていない。 ギャンツェの標高は4000m弱、中央チベットで3番目に大きな町だ。とはいってもメインストリートとその裏にもう1本の道があるだけの至って小さな町だ。未舗装の通りには2階建てのチベット独特の家屋が並ぶが、人通りも無く閑散としている。むしろ寂しいと言った方が正確だ。 ギャンツェ・ゾン パルコン・チョエデからの町並 このエントリーをUPするに当たって、幾つかのサイトを開いて現在のギャンツェの様子を調べてみた。やれやれ、中国資本と漢民族との流入による経済発展のために、年々歳々町並みは近代化しているようだ。いや、もちろん中国がチベット開発を本格化させたことと連動してはいるのだが、おそらくこの町の場合には他の要因がある。実はこの町はラサから第二の町シガツェを通ってネパールの国境に向かう現在のメインルートから少し外れている。しかしこの町からチュンビ渓谷を南へ200km余りで現インド領シッキム州との国境になる。かの河口慧海がチベットを脱出した際のルートでもある。2006年、このナトッ・ラ(峠)の国境が中印国境紛争以来44年振りに貿易ルートとして開いたのだ。おそらくギャンツェの急激な発展はこれと関係するのだろう。もともとインドとの貿易の要衝として栄えていた町が寂れたのも、今また繁栄しようとしているのも、共に中国の思惑と中印関係によっているということだ。だが一方で、この国境貿易再開は、この付近の中印国境問題の「解決」を意味する。中国がインドによるシッキム領有を、インドが中国による現「チベット自治区」地域領有をそれぞれ認めたということだ。この町の発展は、中国によるチベットに対する占領と支配という問題が、また一歩世界から取り残されていくことの表れだとも言えるのかもしれない。 岩山にへばり付くように建てられたパルコン・チューデ(またはパルコン・チョエデ:白居寺)からまっすぐ南に700mほどのメインストリートが伸びる。高い岩山の頂上にギャンツェ・ゾンという城塞が見えると、通りはこの岩山を回りこむように左に折れる。その先に新市街の中心であるローターリーがあり、沢山の車や人で賑わっている。だが僕が訪れたのは新市街など殆ど存在しなかった時代のギャンツェだ。 パルコン・チョエデの門 門内側の路地 郊外の畑の真ん中に江孜飯店(江孜はギャンツェの中国名)というホテルがある。部屋を見させて貰うと立派な家具が備えられた2間の部屋で、6人が泊まるには十分だったがシャワーは無い。拙い中国語で交渉すると1人20元に負けてくれると言う。だが欧州人バックパッカーは柔じゃない。高いということで他を当たることになる。このホテルが建っているのは今の町の中心だ。きっともっと立派なホテルに成って、ツアー客たちを相手にしていることだろう。 結局ドライバー氏が見付けたのは、メインストリートの中にあったトラックストップ。中庭がトラックの駐車場になっていて、その周りを2階建ての宿坊が取り囲む。運転手たち相手の安宿だ。勿論、シャワーなどは無い。いや、当時のチベットにはそもそもそんなものは無いのが常識だった。 夜になれば通りは真っ暗で、飯屋さえ開いていない。その代わり沢山の野良犬がうろついている。チベットには野良犬が多い。昼間はみんな眠そうにゴロゴロしているので良いのだが、夜になると吠えながら集団で走り回るのだ。なんて荒っぽい町に来てしまったんだ、というのが正直な印象だった。 夜に振り出した雪は翌朝まで続いた。凍えながらパルコン・チューデを拝観した後、雑貨屋で食料を調達して昼過ぎに町を出発する。缶詰とか軍払下げの高カロリー・ビスケットとか、そんな物だ。今から思えば、たった1泊しかできなことが勿体無く思われる。晴れを待ってゆっくり町を散策できたならと残念でならない。
by meiguanxi
| 2007-12-29 13:21
| ヒマラヤ・チベット
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Comments(10)
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gogoasia at 2007-12-29 20:15
おー昔のギャンツェはこんなですか!!
今はパンコル・チューデの門前も完全舗装され様変わりです。 それにしてもパンコル・チョルテンの壁画は素晴らしかったです。 ランクルツアーでなけば延泊してじっくり見たいほどでした。 ありがとうございました。
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meiguanxi at 2007-12-30 19:33
15年近く前ですからね。ゴーゴーさんが見たチベットと僕が見たそれとは全然違うのじゃないかな。特に町に関してはもう別の場所と言っても言い過ぎではないのかもしれませんね。ランクルで移動してるんですか? じゃあ、年越しはネパールでしょうか。それともチョモルンマ・ベースキャンプだったりして^^
GoogleMapでもチベットの変化が読み取れますが、ギャンツェやシガツェの変貌ぶりは圧巻です。
おそらく私も没さんと同じ宿だと思いますが、トイレはどうでした?私の時は二階の床(一階の天井)にブッキラボウに穿たれた四角い穴で、下手に囲いがしてあるから夜は真っ暗闇で穴がどこか判らないデンジャラスなボットン便所。でも、満月を背に聳える古城の美しさは格別でした。 ところで、没さんの来年はリベンジの年ですか? 良いお年を!
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meiguanxi at 2007-12-31 10:54
っうっわ~、トイレかぁ・・・思えてないなぁ~。何しろあの頃はびっくりトイレが普通だったじゃないですか^^A; 確か2階に事務所があってストーブがあったような気もするけど・・・
Google Map は凄いですよね。あれ見てると時間を忘れちゃいますw 来年ですか?旅は はぶさんにお任せして、少し大人しくしてようなかな^^
雪で曇っているせいも大きいのでしょうけれど、
寂しそうな町ですね・・・。 晴れてても寂しそうだ、と思います。 ギャンツェ、せめて2000年にちょっと頑張って行けばよかったなぁ。 ちょっと後悔してます・・・。
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meiguanxi at 2007-12-31 19:04
ヤマネさんはあの中国バスで国境まで行ったんですものね。「そうな」ではなく、むっちゃ寂しい町でした。はぶさんの印象はどうだったんでしょうね。数日前に gogoasia さんが見たギャンツェは、けっこう賑やかな町だった筈ですよ。
当時は、晴れていると「寂しい」が「のどか」に変わります。確かに静かでしたが、私は大いに気に入りました。
wa~間に合ったあ!
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meiguanxi at 2007-12-31 23:47
そっか~
やっぱり天候って大事ですよね。旅してて思うんだけど、天候って物凄く人の精神状態に影響を与えるんだなって。 はぶ さんの来年のチベット行が素敵な出会いに満ちていますように! 僕も間に合わせた~^^
間に合わないー! 新年早々不覚を取りました(笑)
2000年の時はバスはラツェ止まりで、そこからはヒッチでした。シガツェからギャンツェへ行こうとすればバスがあったんですけど、心身ともにかなり限界だったので、めげてしまったんですよ・・・。 私もgogoasia さんのギャンツェを見せて頂きましたが、うん、抜けるような青空の下だと印象はまったく違いますね。整備されたことももちろんあると思いますが。 天候と、住む部屋の明るさは大事です。チェンマイで学びました。いま私は明るい部屋にいるのでたいへん幸せですw 今年もよろしくお願いしまーす!
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meiguanxi at 2008-01-01 23:07
ははは^^ おめでとうございます。
海外での年越しは何年目なんだろうw 僕は実は2回しかないんです。しかも初めは12月下旬に出発した生涯最初の旅で訪れたパリで、もうワクワクだったんですw 2度目は何年振りかの長旅で何年振りかの昆明でした。中国だから西洋暦正月はそんなもんだと思っていたのですが、その数日前のクリスマス、真っ暗な田舎町に漏れ響き渡るオヤジのカラオケがどうにも物悲しかったのを覚えています。 隣のスカイプ野郎とも もう少しですので、頑張って新年のスタートをきって下さい! ところで、ロバさんはお雑煮とか、食べられているのでしょうか?^^ そっちが心配w
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by meiguanxi
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