[ 北部ラオ周辺略地図 ]
ヴェトナムの首都ハノイからソン・ホン(ホン川)を北西に遡ると中国雲南省河口(hekou)との国境の町であるラオカイに到る。ここから山道を西に37km、バスで1時間半入ると赤ザオ族や黒モン族が集まる定期市で有名なサパの村がある。いや、今では既に町になったかもしれない。 実はこの周辺はサパに限らず山岳少数民族の「宝庫」だ。今ではラオカイから国境沿いを東に巡る日本からのツアーも出ているようだ。日本で2007年に公開されたヴェトナム映画 『モン族の少女 パオの物語』 の舞台にもなった地域だ。だが僕がこの辺りを訪れた1998年頃には、ハノイからラオカイに到るホン川の西側、フランスとの戦闘で有名になったディエンビェンフーを経由するラインについて書かれたガイドブックはあったのだが(旅行人 『メコンの国』 初版)、ホン川東側の情報は全く無かった。従って僕はその地域へは行っていない。 しかしたまたま宿泊した宿でサパとは別の町の定期市へのツアーを取り扱っていた。サパのサタデー・マーケットを訪れていた旅行者を集めて、日曜日に市が開かれる場所に連れて行くというものだ。サパからラオカイを挟んでホン川の反対側にあるバックハー。今では有名になったバックハーのサンデー・マーケットだが、当時はサパで聞くまで誰もそれを知らなかった。 野菜売りの老婆 生きた子豚を梱包する バックハーに集まって来る民族は花モン族と呼ばれる人々。モン族は中国では苗族(ミャオ族)、タイではメオ族と呼ばれる民族で、貴州省、湖南省、雲南省、四川省、広西壮族自治区、タイ、ミャンマー、ラオス、ベトナムとかなり広い地域に渡って居住している。インドシナ周辺の少数民族の衣装は同じ民族を名乗っていても部族によって地域によって大きく違うのだが、花モン族はモン族の中でもひときは華やかだ。 華やかな衣装の老婆 サトウキビを品定めする古い衣装の老婆 ところでここからはバックハーとは直接の関係が無い話。 民族衣装というものは伝統的生活上の利便が考慮されている部分もある筈だが、実際にはかなり不便なものでもある。これは私見だが、特に女性の民族衣装は他民族・他部族から女性を区別する、或いは男性が女性を縛るという意味合いもあるのかもしれない。勿論、それを着ることで民族的アイデンティティが保管されるという側面もあるだろうから、縛ると言ってもそれは必ずしも強制というものではなく、あくまでそのように作用するシステムとでもいうようなものだとは思うのだが。 衣装だけではなく身体的装飾も同じような 意味合い、役割りなのだろう。例えば日本に 市場から引き上げる人々 もあった御歯黒などは単に他の男に対しての 宣言という意味合いが強そうだが、インドシナ周辺のようなモザイク状態に少数民族が混在する地域では他民族・他部族から女性を防衛するという側面もあったのではないだろうか。既婚あるいは成人女性の剃眉、剃髪、或いは刺青などという風習もこれに当たるだろう。ビルマからタイのメーホーソン郊外に亡命しているいわゆる首長族(カヤン族)の長く誇張された首などはその最たる例であると思うのだが、どうだろうか。 さて以上はあくまで私見であるのでそのまま真に受けないでほしい。だが民族衣装に関して、実は実生活上はかなり不便でもあるというのは事実だ。これらは主に手縫いで本人が、或いは母親や家族が作る。精緻な刺繍も同じだ。つまり作るのに大変な時間と労力とを要する。もちろんコストも結構な多寡につく筈だ。しかも洗濯するのにも非常に労力が必要なので、時には不衛生に成ることも少なくない。彼らの多くは農作業に従事していると思われるが、民族衣装というものは時に重く動き辛い。農作業をするのなら動き安く洗い易く、できれば安価に大量消費できるものの方が圧倒的に便利である筈なのだ。 だから人や情報の流れが速くなり経済が発展し価値観が変容すれば、このような民族衣装は早晩廃れていくのだろう。事実、雲南省では大量に出回る化繊の既製品に取って代わられているケースが非常に多い。もちろん中国の場合にはその裏に政府による漢化政策もあるのだが。しかし善悪判断はともかく、日本の着物がそうであったようにヴェトナムやラオスのこの地域の少数民族の装束もやがては冠婚葬祭以外では見られなくなるのかもしれない。
by meiguanxi
| 2008-01-26 20:56
| メコン流域
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Comments(7)
綺麗な刺繍ですね。最後の1枚のお嬢さんたちの上着、すごいな。
民族衣装に関する没さんの考察、その通りだと思いますね。日本のきものがそうであるように、この地域の伝統的装束も、いずれ工芸品としてしか生き残れなくなるでしょう。 5番目の女性のスカート、今この手のものが大量にタイに持ち込まれてきていて、一大マーケットを形成しています。古いのか古く見せているのか、私にも判別が難しいものも多いですが、既にこの時期に手刺繍ではなく、美しい機械刺繍または機械織りの布を縫い付けるという手法があったのですね……。マーケットでこれらを見る目が変わりそう。 4枚目のおばあさんは、私、鞄から何から全部奪いたい(笑)。 子豚の梱包、雲南でもよく見かけましたね。
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meiguanxi at 2008-02-02 18:11
> 既にこの時期に手刺繍ではなく…の部分はヤマネさんが見たこと?あ、もしこの記事に書いてある雲南のことだとしたら、「既製品」というのは民族衣装じゃなく普通の化繊の洋服のことです。
で、えっ? タイに民族衣装の古着が持ち込まれてるんですか? それは外国人の土産用ってこと? 昆明からボーデン、ビエンチャンからバンコックに到るいわゆる南北経済回廊が完成し中国資本がラオに流入して、沿道の少数民族の生活に大量の既製服が流入しているとも聞くし、そのことと関係があるのかな…ラオの民族衣装も風前のともしびなのでしょうか…
言葉足らずですみません。この5枚目の写真のおばあさんのスカート、これは藍の非常にいい地布ですが、裾に入っている模様が、手刺繍ではないような気がしたんです。地布はろうけつ染めもされていますね。そういう布に、彼女たちが「きれいだな」と思った機械刺繍もしくは機械織りの布を当てるということを、既にこの時期にやっていたんだな、と思って。ごめんなさい、直接この人を見たわけじゃないので、書き方が曖昧になってしまいました・・・。
何でそう思ったかというと、これに非常によく似たチープな模様の化繊布を、この手のスカートに当てていることが多いんです。この写真のものはきれいです、遠目にも。だけどもっとチープなものが今は幅を利かせてる。それを「アンティーク」として売っていたりするので、せいぜいここ10 年くらいのものではないかと漠然と考えていたところに、この写真を見かけたので、ああ、もうちょっと前の時代に既にこういう当て布はあったんだなと……。 すいません、説明がめろめろになってしまいました(笑) 字数オーバーなんでいったん送信します。
すみません、続きです。
タイに大量に入ってきている主にモンの民族衣装は、もちろん外国人の土産としても買われていくし、タイ国内で別のものに作り変えられて、何となく民族調の服になってみたりバッグになってみたり、していきます。タイ人の友人によると、ラオから入ってきているとのことでした。 前はそんなに大量にではなかったのですが、昨年12月に来た時、マーケットが出現していて驚きました。今度その写真を撮ってきますね。 今回ピサヌロク付近でバンコク~チェンマイ国道に入った時、「昆明○○キロ」って看板がありましたよ。ビエンチャンからは昆明行きの寝台バスが出ています。ビエンチャン市内も中華料理店が激増中。何と申しましょうか。 長文失礼しました。
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meiguanxi at 2008-02-03 00:48
あ~ヤマネさん、詳しい説明ありがとうございます。というか恐縮です。そういえばもうずっと前から、テープというか帯というか、そういう形状の刺繍布を見掛けていたような気がします。
でも、そっかぁ、やっぱり説明を読んでると南北経済回廊開通とパラレルであるような気がしますね。回廊沿道周辺のモン族の民族衣装は、バスの車窓に見られなくなる日は思ったよりも早そうですね・・・
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zeroorleast at 2008-02-05 21:40
りーですw 今日は少し暖かかったですが、春は名のみらしいです。足の具合はいかがですか?雪で足元も悪いですから気をつけてくださいね~!
'パオの物語'でも民族衣装のスカートが印象的な使われ方をしていました。最後の写真のチェックの被りものを没関系さんのこのショットで ああ、これなんだ~ってw スクリーンに映し出されて見えているのに見ていないものが結構ありますね。 パオの物語では家族というか家かな・・・家長の存在が大きく必ずしも一夫一婦でなくてもいいようで、そこが切なく描かれてしました。
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meiguanxi at 2008-02-07 23:07
りーさん、多分ですが、南方民族って伝統的に一夫多妻であるケースが多いんですよね。何故かということを男尊女卑という観点からではなく、パラサイト仮説から説明する人もいて、なんとなく納得しちゃったりもします。多分、伝統的には普通なことでも子供の視点というのは別なのかな…それとも映画はヴェトナム人の視点でもあるのかな…
足は、寒いと少し痛むけど大丈夫ですよ。なにせ歳ですからねwwwww_| ̄|○
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by meiguanxi
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