[ エヴェレスト方面略地図 ] [ 日程表 ]
カラ・パタール、ネパール側でのエヴェレスト(エベレスト)・トレッキングに於ける最高標高地点であり、エヴェレスト山頂を最も間近で見られるポイントだ。カラ・パタールとは黒い丘という意味だが、標高5545mのその丘の頂上付近は黒い岩がごろごろとする急斜面のガレ場になっていて、頂上には轟々とした風が吹き抜ける。ここは人1人が漸く立てる切り立った場所で、眼下に横たわるクーンブ氷河との標高差は400mほど。 右手に最も大きく見えているのはヌプツェ(7855m)、チベット語で西岳という意味の山だ。その左奥に僅かに覗いているのは南岳という意味のローツェ(8510m)。これらの左に控える蒼い頂がエヴェレスト(8848m)、チョモルンマだ。その左手前に見える三角錐は北西稜上の肩部(7205m)であり独立峰ではない。チベット側ベースキャンプからの北壁を見て頂くと、それが瘤ですらない肩のような部分でしかないことが良く分かると思う(こちらの写真の右側の稜線、「the Wind」 の 「e」 と 「W」 の間の上)。この肩部とヌプツェの間からクーンブ氷河に繋がるアイスフォールが巨大な滝のように下っているのが分かると思う(「the Road」 の上辺り)。ネパール側からの登山隊が登っていくのがこのアイスフォールだ。画面右上から下り切ったアイスフォールがクーンブ氷河となって画面右方向に大きく向きを変えるその外側(画面左側)の氷河上が エヴェレスト・ベースキャンプ(B.C.)になる。肩部からの稜線はB.C.方向に向かって急激に標高を下げている。最も低くなった鞍部がロ・ラ(ロ峠:6006m)。峠といってもこの稜線は扇のように薄く刃物のように切り立っている。その向こうにツキノワグマのような模様のある山が見える。チベット側にあるチャンツェ(7553m)という山で、北岳という意味だ。ロ・ラから稜線はクーンブツェ(6640m)へ登り、この先、リントレン(6697m)を経てプモリ(7161m)に続く。今立っているカラ・パタールはプモリからの稜線上だ。 ゴラクシェプからカラ・パタールへの上り口 ゴラクシェプ付近のクーンブ氷河(正面にチャンツェ) クーンブ氷河のアブレーションバレーにゴラクシェプという所がある。カラ・パタール直下のロッジ村だ。といっても僕が訪れた1999年にはロッジは2軒しかなかったのだが、今はもう少し増えたかもしれない。ゴラクシェプの標高が5150m、カラ・パタールとの標高差は400mほどだが、この標高での400mの登りはきつい。ここに来るまでにイムジャツェ・B.C.方面に寄って十分に高度順応していた僕の場合で1時間半、直接ここへ上って来た場合には2時間から3時間で登れれば順調だろう。 カトマンドゥからバスで9時間ほどで自動車道路の終点であるジリのバザール、ここからソル地方を歩くこと6日ほどで飛行場のあるルクラ(2804m)に着く。一般的にはここまで小型飛行機やヘリコプターを使うのだが、ジリからの路を歩くことは足を作るという意味では有効であったと思う。途中にはラムジュ・ラという3530mの峠もあるので、一定の高度順応も期待できる。ルクラから更に2日でクーンブ地域のトレッキングや登山の基地であるナムチェ・バザール(3440m)。ここで高所順応の為に1日停滞。ナムチェからカラ・パタールまでは最低でも4日掛かる。 リンクした地図を見てほしいのだが、4日というのは ナムチェ → タンポチェ → ペリチェ(または デンポチェ) → ロブチェ → カラ・パタール という行程で、ロブチェからは日帰りの往復となる。ロブチェ(4930m)からゴラクシェプまでは2時間半から3時間ほどでしかないが、カラ・パタールとの標高差は600m以上になる上に、往復ではこの標高での1日の行動時間としてはあまりに長い。できれば高度順応の為にペリチェまたはデンポチェで連泊ないしそれぞれに1泊しゴラクシェプには5日目に着き、翌日カラ・パタールに登るというのが安全な日程だろうか。 リントレン(左)とクーンブツェ カラ・パタールからのクーンブ氷河(下流方向) 夕景の写真がある。ヌプツェから光が消えエヴェレスト山頂だけが夕日に輝く頃、ゴラクシェプの谷は漆黒の中だ。この色はおそらく写真では伝わらないだろう。エヴェレスト山頂だけに届く光は信じられないほど明るくオレンジに、まさに光り輝く。だが決してゴラクシェプに着いた当日の夕刻に登ること、特に単独行は勧められない。実は僕はこの日、カラ・パタールに2度登った。午前と夕刻だ。しかしそれは前日にベースキャンプを往復していて、ゴラクシェプ3日目のことだったのだ。またこれは失敗なのだが、ここに来る前にイムジャ方面で1度辛い高所傷害に掛かった為に順応が進んでいたという事情がある。 「カラ・パタールなんか全然普通に余裕だよ」という経験者の意見もあるかもしれない。しかし毎年この山域のトレッキングでは高所障害による死亡事故が起きているのは事実だ。あまり説教臭いことを書くとには気が進まないし、僕が行った場所はそれほど大した所ではない。これは毎年多くのトレッカーが目にしている光景なのだから。けれどその気になれば誰でも行けてしまう場所であるからこそ、カラ・パタールをエントリーするに当たっては書くことが義務かなとも感じる。 日本からの高価なツアーなら安心かというと、全く逆だ。日程の消化が優先され自分のペースで体調と相談しながら歩くことの出来ないツアー・トレッキングは、むしろ危険だ。他の人達に迷惑を掛けまいと頑張ってしまうことは自殺行為であり、苦しんでいる者を励ましてしまう周りの者たちの優しい声は悪魔の囁きであるのだ。決して頑張らないこと、自分でもじれったい位のペースで歩くこと、高所に対して謙虚であること、経験によらない自信やちっぽけな自尊心を捨てること、そしてその日の宿泊地に到着したなら、そこより少し高い所に登ってみること、そうすれば大概の場合には高所障害の危険を回避できる。それでもキツイと感じたのなら停滞すること、そして何より改善されないなら下山する勇気を持つことが肝要だろう。 午前中のエヴェレスト 暮れ行くエヴェレスト ところで誰もいないカラ・パタールの頂上で暮れ行くエヴェレストを見詰めながら感じていたのは圧倒的な自然の偉大さと己のあまりの小ささだだったのだが、帰国後に思ったことは少し違っていた。 『もし地球が100センチの球だったら』 という本があるらしい。なにやら 『100人村』 になぞらえたものらしいが、帰国後に僕が感じていたことはその発想に似ていた。考えたのは周囲4mの球だ。地球の周囲が4万kmであるから、1万分の1のモデルだ。赤道面の直系で127cmほど。このモデルに於けるエヴェレストの高さは僅か 0.9mmに満たない。僕が立った場所は 0.5mm半だ。127cmの直径に対しての 0.5mmというのは、半径 63.5cmの 1%にも遥かに満たないということだ。見た目には誤差ですらない。しかしそこにある空気は平地の半分であり、人間が常住することはもとより、いきなり行けば死んでしまうであろう状況なのだ。地球の生命とはなんと繊細なバランスの上に生存していることだろう。
by meiguanxi
| 2008-02-11 18:13
| ヒマラヤ・チベット
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Comments(13)
夕景、いいですねー。私は夕方は登らなかったんですよ。到着してすぐに登って、2度目は翌日の未明。ちょっと惜しかったな、でも没さんのおっしゃる通り、その日の夕方もう一度登るのは危険だったですね、きっと。
ちっぽけな自尊心が爆発してゴーキョとレンジョ・ラに行っちまった私が言うのもアレなんですが(笑)、本当にこのコースは事故も多い。担がれて降りてくる人を行く度(4度ですが)見ています。にんにくスープなんか効きゃしないから、ともかくゆっくり行ってほしいなー。そしてこんな素晴らしい風景を見てほしいですね。 私はカラ・パタールに立った時、あー、人間なんてどう逆立ちしたってコイツらにはかなわねぇ、って思い、下りながら思ったのは、こんな虫みたいに小さな自分、どう生きたって大勢に影響ないんだから、好きなように生きていってもいいんじゃないの? って思いました(笑)。で、今はその成れの果てw
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高山病__確かにこのコースはホンマ多いですね! 患者をひとり現地に丸投げして他のメンバーは先を急ぐなんて酷い話も耳にしましたし、日本人は何故そんなに急ぐんだ?と訊かれた時は情けなかったです。時間に余裕のない人は高所に来るなと言いたい(本音)。
それにしても、んーカラパタール、やっぱ良いなあ。 ところで、夕焼けはポカラからのアンナやマナスルも絶品でした。季節は秋。もっとも、多分にボンが効いてましたが。
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meiguanxi at 2008-02-12 22:34
お二人さん、だからさぁ、実際に僕よりも早い時期にココに行ったことのある人が常連に2人もいるって…書き辛いんだよねー!w
ヤマネさん、4度も行ったんですか!? あれ? 2度行って降ろされる人を4度見たんですか? やれやれどっちにしても…あのね、何度も行って! 一生懸命に時間と大金使って漸く行った人達に呪われますよー! で、それはそうとw そうそう、自分なんかどう生きたって大した事ないじゃん、いいんじゃんって思いますよね、ね^^ うんうん^^A; はぶさん、忌憚無く言えば、「誰もがお前みたいに勝手に生きてる訳じゃないんだ! ツアーじゃなきゃ行けない人だっているんだ!」っていう人は、お気の毒だけど諦めるべきだと思う。旅はそれぞれどんなスタイルだって良いしツアーだって良い旅はできるわけだけど。でも高所だけはね。エヴェレストなんか見ることが出来なくたって人生に於いて大した損失じゃないんだから。・・・でもどうしても見たいって行ってしまった僕が言っても説得力無いかもだけど。
えっと、カラ・パタに4度行ったわけじゃないですよん。最初はタンボチェ止まり(大雪で進めず、これがメスナーのおかげで助かったルクラ11日待ち)、2度目にやっとカラ・パタ、3度目が春の大雪に見舞われたゴーキョ、そんで4度目がこの間のレンジョ・ラです……。皆さんどうもすみません(笑)。で、全てのトレッキングで降ろされる人を見てます。亡くなった方も知ってます。だから本当にゆっくり行ってほしい、ただそれだけだなー。
書き辛いって、没さんはネパール側チベット側両方のベースキャンプに行ってるし、まぁ何をおっしゃっているのやら……(笑) 没さんに共感してもらったんで気分いいっす。今日はLEOビールを飲んでみようと思っとりますっ! では……
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meiguanxi at 2008-02-13 00:07
あれは・・・共感ていうかぁ・・・自嘲ぎみな^^A;;
というか、とどのつまりクーンブに4回行ってる訳ですねー! 腰痛は世間の真っ当な人達の恨みかもしれません^^ 時に、ラッセルのゴーキョ・ピークは凄過ぎますから・・・カラ・パタールより全然辛いでしょ、あの登り。僕はよーやらん^^ LEO、あ、もう買っちゃいましたよね・・・ビア・チャンよか安いですよね。でも買う前に相談して貰えれば_| ̄|○ 悪酔いしないで下さいねw
あの〜、私はクンブーに行ったことありません。あくまでカトマンズで耳にした話です。クーンブに関しては真っ当な方々に恨まれる覚えはございませんので^^。
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meiguanxi at 2008-02-13 23:48
あ、あれ、そうだったんですか? ヤマネさんにヌプツェ指摘したのにw あのですね、カンリンポチェ行ってるんだから反感を買うのには十分ですよ^^
あー、雪のゴーキョの登りはたしかに死にましたね。ルート作っちゃいましたから、主にロバ氏が。途中でアメリカの若い人に代わってもらいました。私は彼について行き、ロバはもう「俺は登らない」ってそこで休んでいたんですが、日本の若い女の子に「がんばってくださいねー♪」と言われて「ふざけんな、俺が作ったルートじゃっ!」と、結局登りましたとさ。
あの、ビールの話は私のほうでご質問等ありますんでよろしくw ただでさえページ汚しちゃってるから……
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meiguanxi at 2008-02-14 01:47
僕がゴーキョに登った時には、パルスオキシメーターって言うんでしたっけ? 指に付けて血中酸素量測るやつ。たまたま同宿だった高齢者が持ってて計ってくれたんですが、シェルパよりも高い値だったんです^^ なので45分前に上り始めた西洋人青年数人をあっさり追い越したんですよw でも、カラ・パタールは途中に平坦な、休むべき場所があるでしょ。、ゴーキョ・ピークにはそれが無い! ラッセルでルート作ってってそんなに体力使ったんじゃ、冗談じゃなく死にますよ普通! 作ったロバさんも凄いけど、雪の中進んだヤマネさんも著作に謙遜してるようなヤワじゃないからー! だって僕の時、普通に引き換えしてましたよ、何人も。今度、貸してくださいね、ロバさん^^ あ、暴力振舞わないように言い付けておいて下さいー!w
私はちゃんと無職の身分でやってますからね、いわばバックパッカーの王道です。これで文句言うヤツがいたら辞表の書き方教えちゃる。
ヌプチェは、ヒマラヤ未体験の頃に写真を見まくったからです。いわば憧れがなせる技です。ホントにもう、あと何本焼け木杭に点火されるやら、戦々恐々でございまする。 ロバさん、怖いのは見た目だけですよ。オメメが可愛いですぅ(♡)。会いたいな〜。
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meiguanxi at 2008-02-15 19:11
あそうか、はぶさんはロバさんに会ったことがあるんでした。僕は以前、ヒマラヤハウスのHPに掲載されていた写真を見たことがあるだけなのですが、ヤマネさんと並んで和室に座るそのお顔はとても穏やかそうに見えたのですけど^^
あ、そうそう、人生には行きたくとも行けない場所があったって良いんですよw そんな訳でまたヤキモキイライラしてもらいますん(語尾りーさん風)
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meiguanxi at 2008-02-16 21:17
そ? 違うかな、やっぱり^^A;
画像処理のソフトが違うんです。なるべく紙焼きされた物に近いようにって思っているんだけど、その時々の僕の気持ちでも調整が違ってしまったりするのかもしれないかな。 えっとねぇ、何度でもドシドシ来て下さーい! てか、居付いてて下さいw
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by meiguanxi
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