[ エヴェレスト方面略地図 ] [ 日程表 ]
馬蹄形をしたナムチェ・バザールの村から右側の山肌を登って尾根に出ると、一気に展望が開ける。深いドゥド・コシ渓谷の対岸正面にタムセルク (6623m) が迫り、右手にはクスム・カン (6367m) が白く輝く。振り返ればヌプラ (5885m) とコンデ・リ (6011m) の威容だ。ここから比較平坦な山腹道を進む。右手はドゥド・コシの断崖だ。左に巻き込むように歩くと、大きなマニ石の向こうに待望のアマ・ダブラム (6812m) が美しい姿を現す。クーンブ山群を象徴するその神々しい山容に見とれながら尚も左に巻くと、それは唐突に左の視界に入ってくる。エヴェレスト (8848m) だ。ローツェ (8516m) の屏風のような壁の上に、イエロー・バンドから上の山頂部だけを覗かせている。それにしてもローツェのピークからヌプツェ (7855m) へと続くローツェ南壁の巨大さは圧巻だ。更に左手の前衛峰の向こうにはタウツェ (6501m) も顔を出している。このタウツェという山はこの先を進むにつれどんどん山容を変化させ、今は奥に見えない隣のチョラツェ (6440m) とともに独特な威容を見せてくれる筈だ。 ヌプラとコンデ・リ タウツェからアマ・ダブラムまでの景観 アマ・ダブラム (右) とローツェ南壁から覗くエヴェレスト この先路は谷へと下り、トレイル上に土産物屋の露天が並ぶサナサで二股に分かれる。左に進めばドゥド・コシ沿いにタウツェの西 (左手) を抜けて、エヴェレストの遠望と美しいポカリ (湖の意) で有名なゴーキョ・ピークへ到る。一方、右は支流のイムジャ・コーラで、アマ・ダブラムを通り過ぎ翌日到着するディンボチェの集落から東に進行方向を変え、ローツェ南壁直下を谷の行き詰まりであるイムジャ・ツェ (アイランド・ピーク)・ベースキャンプ (別名 パレシャヤ・ギャブ) まで続く。決壊が危惧される有名なイムジャ氷河湖のある場所だ。更にディンボチェの下のペリチェ村から反対にローツェ南壁の左端であるヌプツェを回り込むように進めば、エヴェレストの最高の展望台であるカラ・パタールやベースキャンプだ。 谷に下るトレイル タウツェを背景にしたポルツェ村 サナサの先でドゥド・コシを左岸 (進行方向右) に渡るとプンギ・テンガの集落。ドゥド・コシはこの直ぐ先でイムジャ・コーラを分ける。2つの谷に挟まれた山肌の棚地に、タウツェを背景にしたポルツェ村が見える。この村には後に、イムジャ・コーラ流域からドゥド・コシ流域にトラバースする時に宿泊することになる。さて、プンギ・テンガから標高差600mの厳しい急勾配を登りきればタンボチェだ。 アマ・ダブラムとタンボチェ・ゴンパ カンテガ 登り切ると広場に成っていてそこが村のほぼ全てなのだが、標高3867mの丘の上にあるタンボチェはエヴェレストの遠望地として知られ、ここを目的としてトレッキングする人も多い。村の背後にはタムセルク (6623m) とカンテガ (6779m) の岩塊が圧し掛かるように迫っている。この村から見るカンテガはあまりに美しい。集落自体は非常に小さなものだが、大きなゴンパ (チベット仏教僧院) があることで有名だ。古い本の表紙にこのゴンパの写真が使われていたのを見たことがある。背景に迫るアマ・ダブラムの迫力に圧倒されて憧憬れていたのだが、1934年に再建されたその建物は89年に消失してしまった。1999年に僕が見ることができたのは95年に再建されたものだ。尚、この村の名称に関しては “タンポチェ” という記載も見掛ける。“bo” と “po” の違いだが、この手の英語表記の違いはチベット関係では良くあることで、おそらくどちらかが間違っているという訳ではないのだろう。 薪を運ぶ小坊主 勤行する僧侶 ナムチェからタンボチェまで僕の場合で4時間10分、宿で昼食を取った後に広場で山の景色を眺めていると、僕より幾つか若い青年を伴った一組の高齢な夫婦が登ってきた。50歳代から60歳というところだろうか。聞けばこの登りだけで4時間掛かったという。ガイドブックやトレッキング案内書では概ねナムチェから5時間から5時間半でそのうちこの登りに2時間半とあるが、日本での日常の生活からやって来たその年代の普通の人達には、その位の時間が掛かってもおかしくはないきつい登りなのだ。 その夜、ロッジで食事をしながら彼らと話をすることになったのだが、夫婦はこの前の年にエヴェレスト登山での遭難で息子を亡くしたのだそうだ。青年は息子の山仲間で、どうしてもエヴェレストを見たいと言う夫婦を心配して同行したのだった。僕は彼と話しながら、視線の置き場所に少し戸惑っていた。彼の両手の何本かの指は失われていて、鼻の一部も欠けていたからだ。聞けばカンチェンジュンガ (8586m : 世界第3位峰) に登頂した時に凍傷でやられたのだという。しかし、そんな話をする彼はとても穏やかで謙虚な青年だった。 タンボチェ背後の斜面からのエヴェレスト山群 夕景のタンボチェ(背後の斜面から俯瞰) 翌2000年、テレビ朝日で俳優の西田敏行氏が南米最高峰であるアンデス山脈のアコンカグア (6962m) に挑戦するという番組があった。登頂は果たされなったのだが、そのサポート・チームの一員に見覚えのある顔があった。タンボチェで会った青年だ。彼はプロだったのだ。奥田仁一 (まさかず)、調べてみると彼がカンチに登頂したのはタンポチェで会った実に前年で、帰路ビバークになり5名のうち2名が遭難、鼻と手の指の他に足の指も何本か失っている。前の年にそんなことがあったというのに、翌年には友人の両親のトレッキングをサポートしているということに、僕は驚いた。僕にとってはエヴェレスト・トレッキングだって一大事だったのだから。だが彼はそれに留まらず同じ年、チョー・オユー (8201m) に登頂したり シシャパンマ (8046m) に挑戦したりしている。なんという人だ。僕は知りもしないでとんでもない人と話しをしていたのだ。僕には山屋という人種の気持ちは分からないが、とにかくその精神力は想像を絶する。彼も今では既に40代前半だろう。今も元気でヒマラヤに通っているのだろうか。
by meiguanxi
| 2009-02-27 19:34
| ヒマラヤ・チベット
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Comments(17)
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lunablanca
at 2009-02-27 21:14
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こういう山々の姿を目にすると、宗教というものに身を置かない私でも
何故か手を合わせたくなる気がします。神はいるに違いないと思ったりも します。一番下の写真の右上に鳥の影が写っているのも偶然ぢゃない気がしたり....。
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私もそう思います。いわゆる宗教と名付けられるもののそれぞれの神仏や教義ではなく、その存在に畏敬の念を持って思わず跪いてしまう、あるいは究極の願いや許しを吐き出したくなる、そういう意味での神々しさ。強さ故の弱さ、弱さ故の強さ。
たこんなところに行っちゃったら価値観がぐっちゃぐちゃになってしまいそうw
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武藤 臼
at 2009-02-27 23:24
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一連のエベレストトレッキングシリーズと関連する過去のエントリを読ませて頂いてます。
自分にとっては、かつてネパールを訪れた時に、なかば夢として空想し、いろいろの巡り合わせで実現しなかったルートです。 臨場感のある内容にワクワクしながら読んでます。 これからも楽しみにしてます。
私もワクワクでした。
トレッキングの地図をプリントアウトして、記述の地名や山、川、谷の名前 日付を書き込みながら読ませていただいてましたw 実際にこれから行かれる方とは全然違った興味と好奇心で拝見させていただく楽しみは応えられません~。
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meiguanxi at 2009-03-01 00:03
るなっち、僕は宗教から程遠い者なので、飛んでる鳥はもちろん偶然じゃなく、ちっぽけな僕の稚拙な作為ですw
何羽か飛んでたので狙ってたんです。煩悩だらけですー;; でも、まあ、こういうところに先祖代々住んでいると、人為で自然をコントロールするとか支配するとかいう発想とは違って、名状し難いものに生かされているというか、一時、生という状況を借りているというか、そういう気持ちに成ったりもするのかもしれないね。
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meiguanxi at 2009-03-01 00:08
むとうすさん、いやぁ~、むとうすさんにそう言われると冥利に尽きます;;ちょっと恥ずかしいけど・・・
そうですか、未踏なんですか。ちょっと以外です。確かに旅っていろいろ巡り合わせがありますね。長いスパンだと、予定通りにいった例が無いです。 ええと、このシリーズ、一応・・・ここで終了の予定なんです;; どうしようかな、あと1ついこうかな・・・w またいずれ続きをするかもしれないけど
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meiguanxi at 2009-03-01 00:23
りーさん、こういう処で生きていくには非常に保守的な強さみたいなものが必要なんだと想像するんだけど、こういう処に新天地を得た人々は全く保守的じゃない部分を持ち合わせていたんでしょうね。
ここ数十年は外界との接触で沢山の軋轢が彼らの生活の内部であるような気もするし、いまもそうであり続けてもいるのかもしれません。ただ、彼らは生まれてからずっと、僕達とは違う自然の中に自分を見てきたんでしょうね。 ええと、僕達東京の人間がこういう場所に行った時にはむしろ、価値観はすっきりするんじゃないかなw インドとかだと、ぐっちょんぐっちょんに成ったりするけどね^^ 地図までプリントして下れたみたいで恐縮です。どうです?イメージ掴めます? あのね、ナムチェくらいまでなら、いろいろ問題はあってもきっと行くことはできる筈だから!
ここでコメントしたら、次リーさんが「私も…」とコメントしてくれるのかな?
ネパール初体験の頃、タメルのケーキ屋でチョコケーキを食べていたら、日本人に相席を求められました。彼はクーンブで登山し、その下山途中で仲間の一人が死んだらしく、大使館に連絡してきたばかりだと言ってました。結構さばさば話すんやなあと思ってたら、ふいに「あいつもチョコレートケーキ、好きだったよな…」と呟いて、私の食べているチョコケーキをしみじみ見つめ出した。何となく食べずらかったな。。。食べましたがね。
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meiguanxi at 2009-03-01 01:27
はぶさん、りーさんのは、無いと思いますwwww
ん・・・彼は誰かと一緒に居たかったのかもしれませんね。本文にも書いたように僕には山屋の気持ちは分からないけれど、彼らだって死んでしまうことが誰かにとって不条理なほど可哀想な事だって知ってる筈なんだって思う。多分、自分が危険な場所に挑戦すること以上に、仲間の死は辛いんだろうなって・・・
アクセスが少し早かった;;;いや、遅すぎたのか?
それでも山に戻る山屋の心理は、社会復帰に失敗した元帰還兵の心理と底通しているだろうなと想像はしてみますが、それが何なのかは私も分りません。
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武藤 臼
at 2009-03-01 20:11
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まだ以前の分を読み切れて無いですので、おりを見て読みに来ます^^
読んでるよ行きたくなるのはいつものことですが、エベレストこそ自分の目で見てみたいですね^^
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meiguanxi at 2009-03-02 21:46
はぶさん、りーさんのレスを待てば良かったかな^^A; たまたまレス書いてた時だったので、とっとと否定しちゃいました~w
ん~、兵隊さんの場合、社会復帰をしようとして出来ないケースがあるのでしょ?山屋の場合、山に情熱とか想いとかあって戻っていくのだから、少し違うのかな・・・ん~、旅屋も似たようなものかなぁ・・・
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meiguanxi at 2009-03-02 21:53
むとうすさん、そうですね、これは自分の目で見たいってものはありますよね。是非、見てください!
でも、見られないんだろうなってものもありますよね。K2とか、絶対に見られないだろうし、僕はカイラスも見られないのかなぁ・・・
いやいや、見られますよー、きっと、大丈夫だっ。必ずその時は来るですよ(って、えらそうにスミマセンスミマセン)。
私はたぶん、アマゾン川とアフリカのサバンナでくつろぐライオンは、生きてこの目で見ることはないだろうなー、と思ってます。でもいいの、そんなに見たくもないし(笑)
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meiguanxi at 2009-03-06 01:03
僕もコロラド川と南極で子育てするペンギンは見ることがないと思います! はいー♪ そんなに見たくもないです^^
K2 はねぇ、もしかしたらPKの北京経由帰路便から見たあの山がそうかなぁ、とか思わなくもないのですけど、カンリンポチェは・・・歳だし・・・
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himalaya3 at 2009-03-07 19:20
yamane です、まだログアウトできずにすみません・・・。
えーと、歳の話は言いっこなし、で。 それよりお互い脚とか腰とかの古傷というか後遺症というか・・・。って結局、歳ってことですかぁ、身も蓋もなし。 でも没さんはカイラスに呼ばれると思うけどなぁ。
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meiguanxi at 2009-03-08 18:12
まだ、のヤマネさんw
えと、ex は右上からTOPに行くと、左上の自分情報の一番下にログアウトがありますよ。まあ、たまにはヤマネさんのexblogの宣伝ってことでw ええと、実は僕、骨折は6ヶ所7ヶ所やってまして、もう10年15年もするとそちこち痛み出すんだろうな・・・^^A; カイラスからの招待状は、ん~、近く行く予定の誰かさんが預かって来てくれるといいんですけどね。
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